紀子の食卓

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見てきた。吉高由里子ちゃんの飄々としたお芝居は、風のようでもあり、首筋にあてられたカミソリの刃のようでもあり、無痛で胸に刺し込まれるナイフのようでもあった。「感覚」がそのまま剥き出しになってしまっているようなその超自然体の演技は、しかしあまりにも凄すぎて、人によっては単なるヘタウマにしか見えない可能性もある。園監督が「ピュアな芝居力」と呼んだそれに、私なんかは見ている間ずっと戦慄しっぱなしだったんだけど、芝居をひとつの型にはめて見ようとする人には、この純粋で自由な力はなかなか伝わらないかもしれない。終盤、その「感覚」の核のような部分が恐怖を覚えるほど生々しい形で露呈する場面(この映画の核心が語られる場面でもある)を、非常に長いワンショットで撮影していたことに感動した。
映画自体も面白かった。次々と主体が変わるモノローグ(主要登場人物の名前でチャプターが分かれているのだけれど、そのチャプター内でもさらにコロコロと変わっていく)が終始、淡々と鳴り響き、現在/過去の時制を自在に行き来して時に反復もされるその構成は、ヘタするとゲージュツやブンガクと化して退屈なものになってしまいそうだけど、この作品はそうはならずに不思議なくらいニュートラルな印象を保ち続けるのだった。キャメラなんかもすごくニュートラル。あちこちに出ている園監督のインタビューを読むと、それはやはり狙いだったらしい。
重いテーマではあるが、必要以上の緊張を強いたりはせず、逆になんともあっけらかんとした空気が全体に漂う。2時間40分という上映時間の長さは微塵も感じさせず、なんだかアッという間に終わってしまったような気さえする。なんだろう、これ。一言ではうまく言えない、不思議な魅力のある作品。