16[jyu-roku]


http://www.16-movie.com/
見てきた。これはいい映画だった! 東さん、『初子』だけではやや弱いかなと思っていたけど、この作品があればもう大丈夫。
ストーリーはいたってシンプル。田舎から上京してきた女優の卵の女のコがその伏し目がちだった目をすっと見上げて映画の撮影にのぞむまでのお話。本当に他愛のないものだ。『日本映画magazine』というムックに東さんとタナダ監督のインタビューとともに奥原浩志監督による東亜優評が掲載されていてこれはとてもよい文章だからぜひ読んでもらいたいんだけど、そこで奥原監督が東さんに上京話を取材した際、その物語を聞くよりもただ「笑ってみせて」「怒ってみせて」「歩いてみて」「走ってみて」「黙ってみて」とだけ言いたかった、そしてそれだけの、そういう映画にしようと思った、、、というようなことを書いていた。実際にできあがった作品を見ると、この奥原監督の言葉の意味がとてもよくわかる。
奥原監督の演出は素っ気ないようでいて実は丁寧だ。拾うべき顔はきちんとキャメラが寄って正確に拾っている。『赤い文化住宅の初子』がフォローしていなかった部分をこの『16』は大切に撮っている。またこの映画でも『初子』と同様、固定ショットが多用されているのだけれど、http://d.hatena.ne.jp/claudine/20070520#p2で書いたような画面自体の退屈さは巧妙に回避されている。固定ショットの場面を注意して見てみるといいよ、フレーム内で必ず何かが動いているから。こうした点ひとつとっても、タナダ監督より奥原監督の演出の方がずっとうわてだなと感じる。
私がいちばん好きなのは、やはり東さんと柄本時生くんが付かず離れずの距離を保ちながら深夜のレインボーブリッジを無言のまま歩いてわたるシーン。あそこで流れる「時間」こそが「映画」だと思う。この「時間」がこのままずっと続けばいいのに、、、と願いながら私は見ていた(ちなみにこのシーンでは脇を走り抜ける車から菊池信之さんによるものと思われる腹にくるようなとんでもない轟音が響いてきて嬉しくなった、と同時にもっと音のいい劇場で見たいなとも思った)。
主演映画の撮影現場で休憩していた東さん演じるサキが撮影スタートの声にすっと目を上げるそのアップの後、この作品は静かで美しいラストショットを迎える。そこに差す淡い光たちは、まるで東さん本人の未来を祝福しているかのように思えた。


ウチのブログを読んでいる人は、この「傑作」と呼ぶにはあまりにもつつましい佇まいを持った愛すべき小品を決して見逃さないように。私ももう1度、見にいきたいです。


図書新聞』にでかでかと1面を使って『初子』と『16』の評が出ています。大きめの図書館へ行けば置いてあるはず。