溺れる熱帯魚
http://www.nhk.or.jp/nikki/top.html
中3の辻馨(つじ・かおる)は、7歳から父親の薦めでフィギュアスケートを習っている。スケートは決して嫌いでは無かったが、父の満足のために続けているというのが本音だった。父親の「時間は二度と逆戻りしない(だから才能と時間を無駄にするな)」という口癖は馨の心に重くのしかかっており、常に自分がしたいことよりも父が喜ぶことを優先していた。父が思い描く理想の子供像・・・馨は父の飼う美しく優雅な熱帯魚にそれを重ね、父の理想になるべく自分を押し殺して生きていた。
しかし三年生になって急に背が伸びた馨は、かつてのように身軽にジャンプができなくなり、スケートに限界を感じるようになる。苦しい練習、上がらぬ成果。スケートを辞めたい。しかし父親にはどうしても言うことができない。溜まるプレッシャー、歪む精神、引き裂かれる心・・・。重圧が臨界点を超えたとき、ついに馨は・・・・。
【出演】 辻馨 安藤彰悟 川野太郎
【脚本】 伊佐治弥生
【音楽】 BANANA
【演出】 須藤秀樹
http://www3.nhk.or.jp/omoban/main1016.html#20061016002
今週の『中学生日記』。これは『父のフォークロア』以来、久々の秀作。このディレクターさんは実力がある。
最初の食卓のシーンでの不協和音の入れ方からして既にムムッという感じですが、辻くんの不安げな瞳を丁寧に追っていくことを基本に、細かいエピソードを淡々と積み重ね、その繊細な心の揺れを的確な構図でシャープに切り取っていく演出は非常に冴えている。佳作『ガケっぷちクラブ』(id:claudine:20060511参照)でも顕著だった縦の構図へのこだわりが感じられ、思わずハッとするようなカットが随所に現れる。またフィギュアスケートという魅力的な「運動」を捉えることにも、十分、意識的なようだ。
父親が例の言葉を言うときの口元のアップは無粋だし、ラストの不満をぶちまけた後の辻くんの主観ショットはもうちょっと何とかなったような気もする(耳をふさいで走る姿の「みっともなさ」は良かった)けど、他はあくまでもクールな作りに徹している。個性と自意識を取り違えた人が多い中、この冷静でニュートラルな感覚はとても貴重だ。
こういう地味で暗い内容の作品は現役の中学生のコたちにはまず受けないだろうけど、手応えのあるものを求めている大人の視聴者にはぜひ見てもらいたいと思う。見逃した人は、土曜日の再放送をチェック。