父のフォークロア

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中学3年生の成瀬弘光(なるせ・ひろみつ)は母と妹の3人で暮らしている。
ピアノ調律師だった父は3年前に母と離婚し、台風のあと家を出て行った。
父との思い出は、小さいころ池に釣りに出かけるたび語ってくれた「兄妹蟹と父蟹」の物語。
父は一年に一度、ユカリの誕生日にやってくる。
もうすぐユカリの誕生日、今年は台風が近づいていた。
【出演】 成瀬弘光 利重剛
【脚本】 萩生田宏治
【演出】 淋代壮樹

http://www3.nhk.or.jp/omoban/main0619.html#20060619001
今週の『中学生日記』。これは秀作。いつもそうだけど、この監督さんは具体的な画や音が持つ力に対して、かなり意識的な演出をするよね。たとえば、それは異様な緊張感が漂うピアノの調律のシーンの描写を見れば、誰の目にも明らかだと思う。また、脇を追い越していく列車にふと目をやり、それに続くようにしっかりと前を見据えて歩き出した成瀬くんの背中を収めつづけるラストショットなど、実に見事で文句のつけようがない。それは先週の『星は昼も輝く』(id:claudine:20060613#p1を参照)のなんだか締まりのないラストと比べれば、画面そのものが持つ強度の差はもう歴然としている。
でも、この作品と『星は〜』、どちらが好きかと聞かれたら、個人的には後者だったりするんだよね。この監督さんはたぶん一つ一つの演出に強い確信を持っていて、たしかにそれはいつも非常に的確だったりするんだけど、それゆえに作品の世界全体がどこか閉じてしまっているような印象を受ける。だから、見ていて面白いんだけど、ノレない、という。
ただ今回の作品は、今まで見たものとは少し趣が異なっていて、良い意味での「無駄」が随所にあり、そこがかえって作品全体の風通しを良くしているように思えた。これはおそらく、脚本家さん(今回はいつもの鈴木卓爾さんによる緻密な脚本ではなく、『神童』の萩生田監督によるもの)との相性の問題なんでしょう。たとえば、あの同級生の女のコが出てくる場面なんかはちょっと説明的な感じのするセリフが多くて、いかにもこの監督さんの好みじゃなさそうなんだけど、でもそういった戸惑いの表れがむしろ作品にとっては良い方向に作用しているような気がした。それでもやはり、私にはまだ「意味」が多いかな。
それにしても番組掲示板での反応が薄いね。この作品だけでなく、『星は昼も輝く』にもアーカイブス『ダッシュ』にも、なぜかあまり反応がない。どれもいい作品なのに。みんな『気がつけば きみがいて』のような、わかりやすい飛び道具がないとダメなのか。