ユビサキから世界を

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一昨日、イマジンスタジオで2回、見てきました。
谷村美月ちゃんは、やはり1人だけ別の役割を与えられていて、それは端的に言えば「死」と向き合う役だということ。この映画の主人公たちの中で「死」と本当に向き合うことになるのは美月ちゃん演じるリンネだけであり、実際、リンネは話の中盤に1度、死ぬ。どうして美月ちゃんだけ土の中に埋められてしまうのかというと、美月ちゃんなら「死」や「世界」の(文字どおりの)「重さ」に耐えられると監督が信用しているから。オーディションのとき一目見て美月ちゃんをこの役に決めたという行定監督は、やっぱり『カナリア』で以前から美月ちゃんのことを知っていたんじゃないかな。
美月ちゃんの演技自体は、これがベストだとは思わない。『カナリア』のときは本当に動物的な勘だけで演じていたと思うんだけど、最近の美月ちゃんはもっとずっと考えてお芝居するようになってきているよね。この作品でも、それは例えば、たこ焼きを食ってるシーンなんかに顕著だった。でもそれは決して悪いことじゃない。美月ちゃんは今、そういう時期なんだと思う。いろいろな作品に出演して、いろいろな役に挑戦して、いろいろと美月ちゃんなりに考えて演じて、、、そういった実践の積み重ねの中にしか「成長」は存在しないということを、聡明な美月ちゃんは最初からよくわかっている。
他のコも良かったです。北乃きいちゃんは『東京変身少女』(のメイキング)を見たときにも感じたけど、良い意味でのしたたかさを持っているコだと思う。思わずゾッとするような冷たい響きを有するモノローグには、少し恐怖を覚えた。このコもアイドルっぽいルックスに反して、中身はかなり「女優」だよ。
永岡真実ちゃんは、今年の『五つ子』の100倍、輝いている。これはもう演出の差。『きょうのできごと』における伊藤歩さんを思わせる魅力的な甘ったれ女のコの役で、行定監督はこういったタイプのコを撮るのが上手いのかもしれない。真実ちゃんは滑舌さえしっかり治せば必ず良い方向へ行くと改めて思ったけど、今のような半端な活動をしていては伸びるものも絶対に伸びない。これも改めて言っておきます。
作品の内容に関しては、制作期間の短さゆえの練り込みの甘さが随所に感じられました。でもまあ、それは誰でも指摘できることだから。。。行定監督はこの作品の紹介記事で「インディペンデント時代の自由な作風云々」というようなことを言っていた気がするけど、要は完成度を無視した「乱暴な映画」が作りたかったんだと思う。だから、そんな不自然なこと誰も言わないだろうというようなセリフもがんがん口にさせるし、しつこいほどモノローグも入れる。雷鳴とともにとってつけたような土砂降りの雨が降り、死んだ人間は生き返って、頭上にはゼロ戦まで飛ぶ。いわゆる「現実っぽさ」のようなものはあえて問題にせず、やりたいことはすべてやる、言いたいことはすべて言う、みたいな。その意味で、実は『カナリア』と似た方法論と言えなくもない。ただ塩田監督が抱えていた切実さやシネフィル的なストイシズムに比べると、行定監督のやり方はいかにも下世話で品がないんだよね。ランボーの有名な詩の一節をこれ見よがしに使ったりして。またこうした場合、ひとつひとつの描写に強引な力がなければいけないんだけど、その辺も弱い。例えば「唐突な事故」の演出ひとつとっても、『きょうのできごと』のひき逃げシーンのような面白さがない。あと監督はやっぱり、タイトルのまんま「ユビサキ」=「手」が撮りたかったんじゃないかと思う。ファーストショットはシャープペンをいじる美月ちゃんの「手」だし、土の中からゾンビのように這い出してくる「手」の描写はまさに「ユビサキから世界を」で笑える。でもそれなら、ランが母親の髪を梳かしたり腰に手を回したりする場面やタマが彼氏の車の曇った窓ガラスにハートマークを描く場面なんかはもっと意識して撮ってほしかった。それをやるだけで、すいぶん印象が変わるんだけどな。『カナリア』もまさしく「手」の映画だったと私は考えているけど、美月ちゃんファンの人は見比べてみるといいかもよ。
と、内容に不満な点は多々あれど、それでもそれなりに見れてしまうのは、行定監督が役者を魅力的に見せるための最低限の演出はできる人だからかな。
しかし、あのラストのオチはどうなんだろう。はじめの方で「アメリカ」を連呼させている意図がわからなければ、単なる悪ふざけにしか見えないんじゃないか。あの「宙吊り」は完全に現代の日本の若者に対する皮肉なわけだけれど、おそらく大半の人はそうは考えないでしょう。
ナナゲイのサイトに『かぞくのひけつ』紹介ページ
http://www.nanagei.com/movie/movie.php3?num=86
『red letters』もナナゲイで上映されるみたい。関西方面の美月ちゃんファンの人、よかったね。
http://www.nanagei.com/movie/next.html
先日の『檸檬のころ』トークイベントの記事
http://www.shimotsuke.co.jp/media/remon/0828.html
北乃きいちゃん主演『幸福な食卓』特報予告編
http://ko-fuku.jp/pc/